研究概要

①超伝導線材開発

 超伝導現象の内、電気抵抗ゼロの特性を利用するには、電流を流すことのできる線材の形にする必要があります。本研究室では、新しい線材開発を行っています。超伝導材料としては、低温超伝導材料に属するA15型超伝導体であるNb3Sn、日本で発見されたMgB2、さらに、高温超伝導材料であるYBCO系の線材開発を行っています。特に、Nb3Sn線材は機械特性の向上を目指した線材作製を目指しており、MgB2とYBCO系は通電性能の高い丸線開発を進めています。

 

(1)Nb3Sn

Nb3Snの結晶構造は、図1のようになっています。この結晶構造からA15型金属感化合物と呼ばれています。結晶構造の対称性が高いことに起因して、超伝導特性が高く、臨界温度も低温超伝導と呼ばれる化合物の中では高く、Tc=18 Kを示します。A15型超伝導体の線材は、今から約50年前にブロンズ法が開発されてから飛躍的に使いやすくなり、広く利用されるようになりました。(ブロンズ法は太刀川恭司博士(当時金属材料技術研究所、現東海大学名誉教授)によって開発された、機械特性を飛躍的に改善し、さらにNb3Snを低温熱処理で作製できるようになる、画期的線材作製法です。)その後も、線材作製プロセスの研究が進み、内部拡散法、パウダーインチューブ法、ジェリーロール法など、様々な線材作製法が開発されてきました。ところが、Nb3Snに限っては、結晶構造に起因する問題点が存在します。それは、小さなひずみによって超伝導特性が大きく変化してしまうことです。この現象に関しては次の章で詳しく説明しますが、機械的に強い線材が求められています。

 そこで、Nb3SnにNbとSn以外の元素を添加することで、その現象を抑えること、若しくは、NbやSnそのものを別の元素で置換して、ひずみと超伝導特性との関係を変化させることを目的として、線材開発を行っています。線材作製が進むにつれて、、第3元素添加線材の添加元素による、Sn元素の拡散に関する新しい知見も分かってきており、機械特性だけでなく、超伝導特性も最適にする添加元素を提案することができるのも遠くありません。

 

 

 

 

 

 

 

図1. Nb3Snの結晶構造 


(2) MgB2

 MgB2は、日本で発見された超伝導体で、39 Kという非常に高い超伝導転移温度を持っています。このために、従来の低温超伝導線材よりも高い温度での利用(冷凍機や液体水素温度の20 K付近)が考えられています。ただし、MgB2線材の臨界電流密度(超伝導として電気抵抗ゼロで流せる電流密度の限界値)は、特に磁場中においてはまだまだ低く、これをもっと向上させる必要があります。

 そこで、MgB2線材の臨界電流密度向上を目指し、新たな線材開発を行っています。特に、最近開発したハイブリッド線材は、MgB2線材を次に紹介する高温超伝導体で覆うことで、磁場に弱い弱点を克服し、強磁場中で非常に大きな電流を流すことに成功しています(特許申請済み)。

(3) YBa2Cu3O7-x

 YBa2Cu3O7-xはいわゆる「銅酸化物高温超伝導体」と呼ばれる超伝導体であり、T= 90 Kですが磁場中での特性に優れた超伝導体です。このため、超強磁場超伝導マグネットへの応用が期待されています。

 線材は「coated conductor」と呼ばれる、層状構造を持ったテープ状の線材として市販されています。現在、最も注目されている線材です。線材の特徴として、基板として使われる金属材料が非常に機械的に強いため、機械特性が高く、超伝導特性も高いという優れた線材として応用が期待されています。

 ところが、層状構造であるが故に、どうしても剥離に弱いという特徴があります。この剥離を起こさないためのコイル開発が進んでいますが、本研究室では、基本に立ち返り、機械加工で作るYBa2Cu3O7-x丸線材の開発を行っています。

 超伝導体と反応しない銀管の中にYBa2Cu3O7-xを詰め、これを溝ロール圧延という手法で圧延加工することで伝染の形にします。それを、「溶融成長」という方法を利用して、線材内で結晶成長させることで高い通電電流を持つ超伝導線材開発を行っています。すでに基礎技術は確立され、超伝導特性を向上させるための条件を地道に続けている状況です。

②超伝導線材の機械特性の測定

 超伝導線材が作製できると、それを実際に使うことが次の目標になります。このとき、必要なことが超伝導線材にどれだけの電流を流すことができるか、つまり、臨界電流密度Jcが重要になります。

 超伝導線材の主な使い道で最も多いのは、超伝導マグネットです。MRI、リニアモーターカーも超伝導マグネット応用の一つです。そのマグネットに使う際に、考えるべき問題が機械特性です。超伝導マグネットは大きな電流を流し、強力な磁場発生を可能にさせるのですが、この時、超伝導線材にはローレンツ力による巨大な電磁力が加わります。この電磁力はコイル形状の場合は、そのコイルが膨らむ方向に加わりますが、これは線材にとって引張り荷重を与えられていることと等価となります。

 ところが、NbTi以外の材料(A15型超伝導体、酸化物系高温超伝導体など)は、機械特性が悪い事がその応用の大きな壁になっています。これは、化合物、酸化物などが脆性材料、つまり、もろい材料である事に起因します。現在は、そのもろさを克服した線材が開発されており(例、ブロンズ法、coated conductorなど)、特にNb3Sn線材は広く使われていますが、依然として機械特性は問題として残っています。 これに対して、実際に利用される環境と同じ、低温強磁場中で引張り荷重を与えた状態で臨界電流の測定を行い、超伝導線材の低温強磁場下における機械特性を測定します。ここで測定したデータは、超伝導マグネット作製の指針となります。

 現在は、特に超伝導特性の変化が大きいNb3Sn線材と、やはり超伝導特性が変化するREBCO coated conductorに対して研究を行っています。どちらも、結晶構造が超伝導特性に密接に関係するために、ひずみに対して超伝導特性が変化すると考えられます。

 ひずみは以下にある引張り試験機を用いた、液体窒素中引張り試験と、冷凍機を使って10 K (-263ºC)まで冷やした状態での引張り試験などを行っています。

 さらに高温超伝導線材の曲げ試験も行っており、様々な曲げひずみを与えた状態で、温度を変え、磁場を変え、磁場の方向を変えて、超伝導特性の測定ができるようになっています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上図は小型の引張り試験機。これを液体窒素中に入れることで、高温超伝導線材の引張り試験などを行うことができます。小黒研の現在のメインの測定装置です。